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  • 2014.05.31 Saturday
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会社の同僚にふられました

 ブログはじめました。


『クエの行く先に』 

というタイトルです。








会社の同僚にふられました

ほかの人と結婚するそうです。

なんだか

ぱっとしないこの頃です。




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この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
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壁のシミ

 

第一章 壁のシミ




 会社の給湯室の窓からは、

砂利を敷き詰めた空き地が見えた。

そこには針のように細い草が生えていて、

風になびく様子は霧が水面を這うように

滑らかで美しい。
 
梅雨入りしていたのに雨が降らなかった。

それでも田んぼに水が入ると、

蛙たちは一斉に鳴き始める。


 


そんな風景をしばらく眺めていた君島咲子は、

自分がなぜここにいるのかさえわからなくなっていた。

きっかけは、

入社して以来付き合っていた田邊洋平が

自分以外の人と結婚すると決まったから。


 

窓の外から目を移すと、

正面の壁には

(クエ<>)の形をした大きな染みが広がっていた。

いままではそのシミに気がつかなかった。

クエのようにも見えるし、

人の横顔にもみえる。

自分も感情に流されず、

もがくことのない魚になりたいと思った。




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失恋だって立派な節目に違いない。

 



咲子は
 
仕事が終わりアパートへ帰ると、

手持ち無沙汰なので洗濯機を回す。


大声を出して泣くことはやめた。


洗濯槽を眺めたり、


しゃがみこんで
煙草を挟んだ指先の


ほとんど剥げ落ちてしまったマニキュアを眺めたり。


いい加減に部屋を片付けようとも考えている。




人生にはいろいろな節目があるというじゃないか。


失恋だって立派な節目に違いない。


これを機に


いままでなんとなく片付けていた仕事に

意欲的に取り組んでみるとか、

趣味に没頭するとか。



でも、

そんなことに何の意味が?

 
付き合い始めたそもそもの動機が、


恋愛かどうかもあやしいのに、

いちいち深刻になるのは馬鹿げている。




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今すぐ死んでくれたらいいと思う。

 



田邊が今すぐ死んでくれたらいいと思う。


いや、結婚式の最中がいい。



四十九日が過ぎた頃、


雑巾という荷札で送り返されてきた


手編みのセーターを墓石に着せに行く。


あの人は
墓の中から手も足も出せずに

不愉快に思うだろう。


そうなればなにもかもすっきりするはずだ。

 

くだらない仕返しを考えている自分を

今すぐ洗濯槽の中に放り込んで、


魚に変わってしまいたい。



田邉が来るはずもないのに映画館で待ってみたり、


彼の部屋に電話をかけて、


もし女の人が出たら惨めなので


あわてて受話器を置いたり。


自分を慰めて、


励まして、


騙して。


恥の上塗り。



そんなことはもうしたくない。


冷たい風がカーテンを揺らした。


もうどうでもいい、そんなこと


お腹がすっと冷たくなって、足がすくむ。


咲子は

思っていた以上に弱い自分自身に

落胆していた。



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誰も座れとは言っていないけれど

 


朝、


咲子がいつものように

一人で掃除をしていると、


高校生ぐらいにしか見えない男の子が


事務所にやってきた。




もしかして、

今日からバイトに来ることになっている

戸田さんですか

 


彼はうなずいて

近くにあった事務椅子に腰掛けた。


ジーンズからシャツの裾を出し、

胸元に

白い貝殻のペンダントが覗いている。


前髪がやけに長いので

表情がわからない。




けだるそうに

静脈の浮いた腕を上げ、


シャツの胸ポケットから煙草を取り出すと、

長く細い指に挟んだ。



誰も座れとは言っていないけれど

彼のしぐさは


海の底で静かにゆれる海草のようで

すてきだと思えた。


咲子の視線に気がついて

戸田は煙草をしまう。




戸田一輝




咲子は出勤簿に書かれた

新人アルバイトの名前を

ながいことぼんやり眺め、


自分では気づかず声に出して読んでいた。





一輝はよく遅刻をした。


出てきても覇気のない顔つきで

机に向かっている。


夜中に小説を書いているらしい。


でもその主人公は自分なので、


書いているうちに

腹立たしくなるそうだ。


何も上手くいかない。


思いどおりにならないことだらけ。


今までに何作か書いているというので、


読ませてくれるように咲子は頼んでみた。




人にはちょっと





彼には珍しく


感情の入った照れ笑いを浮かべ嫌がった。





小説を読まれるのは、


自分の裸を見られるぐらい恥ずかしいですよ。


こんなこと考えていたのかって、


人格疑われそうで怖いもの






でも見てみたい。

気になるなぁ







咲子はどうにか口説き落として、


昔に書いた一篇ならば

見せてもいいというところまで漕ぎ着けた。



が、その約束も


二、三日のうちに

うやむやになってしまった。


彼女が催促してまで

見せろといわなかったのは、


一輝に避けられたくなかったからだった。



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俺、一日ここにいる必要ないですよねぇ。

 





 事務所には

電話番の咲子と、


電話一本、伝票一枚整理することもない


一輝がいるだけの日が多く、


営業の男たちは夕方にしか顔を見せなかった。



一輝は出社二日目から堂々と

事務所で煙草をふかすようになった。



支店長から聞いた話では、


親会社の専務の息子だそうで、


高校を中退して一年は工場で働いていたという。


そこも途中で辞めてしまい

半年ほどぶらぶらしていたそうだ。





俺、

一日ここにいる必要ないですよねぇ。

なんで雇われているんだろう?




その疑問は、

咲子が自分自身に対して

何度となく繰り返してきたものと

同じだった。


ここにいる理由。


田邊がいたからだとは思いたくない。


給料を貰うからには

もう少しましな理由があってもいいはずだが。




なんで学校やめたの? 




返事など、

はなから期待していない




私も

この会社そろそろ潮時かと

考えているんだけど、


参考までに聞かせてくれない





そうなんですか? 

じゃ、

君島さんより先に辞めないと

逃げにくくなるなぁ

 




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カラスの屍骸なんかふつう見ます?

 





その日

咲子は一輝を夕食に誘った。





“野球拳”って、

ここなんの店ですか?

 



屋台というよりは、

小屋に近い外観。


ログハウスと呼ぶにはお粗末な造りで、


不格好だった。






食堂だと思うよ、

一応。



なんだかすごいよね、

屋号からして。


前から入ってみたかったけど、

女一人ではちょっとねぇ





サンダル履きの普通のおじさんに混じって

レゲエの人がいるんですけど



 

常連のおじさんたちは

中央の長机を囲んで、

すでに出来上がっている。



隣に健康ランドがあるので

どうもそこから流れてくる

地元の親父酒場のようだ。


小鉢やビールは

冷蔵庫から自分で取ってきて、

前払い。

銭湯で飲む牛乳のノリに近い。




窓の近くのテーブルについて、


二人とも缶ビールを空けた。


一輝はアルコールに弱いらしく、

それほど飲んでいないのに赤い顔をしている。



酔いが回ると

別人のように口が軽くなった。


小説はそっちのけで、

いまは潜在能力の開発に挑戦しているそうだ。


宝くじが当たった様を思い浮かべ

自分は当たる

と強く念じるらしい。


一等が五十万円の地方くじを当て、

そのお金で全国宝くじを狙うと言う。


咲子は思わず吹きだしてしまった。



絶対当たるって

信じていたのに。

なんだかパチンコで負けたときより

理不尽な気がする


明日宝くじの発表があるんで、

たぶんバイトには来ませんよ。


どこかで、

しばらく一億円の使い道を考えるんです。



昨日、

そんなことを言いながら帰った彼を思い出して

おかしくなった。



潜在意識っていっても

一週間ぐらいじゃ、

だめに決まっているかなぁ。


なんか不吉な予感がしてたんだよなぁ、


カラスの屍骸なんかふつう見ます? 

しかも二匹続けて

 


給湯室から見える空き地に


野晒しになっていた死骸なら咲子も見ていた。



カラスが不吉なら、

死んでいるカラスは吉兆じゃないの?




そうじゃなくて、

死骸を見てしまったってことが不吉なの




お金がなくてもさ、

そばにあるやわらかくて

暖かいものにもたれ掛かれたら

しあわせだと思わない?




なにそれ?





いや、ただ感覚として。

なにが不満なの?






もっとすごい人生があると思う。


人にはあって

自分には巡ってこないのが悔しい。




俺、

一億円の使い道は

ほぼ決まっているんですよ。


今住んでいるとこは、

毎朝早くに踏み切りの試運転があって

うるさいんだ。


もし宝くじが当たったら

あんなところさっさと引き払って、

夜景が見渡せる

ワンルームマンションに住むから







どんな人生があるというのだ?

不満だらけのこの男に。 



あのレゲエのおじさんさぁ、

三億円当てて

ここのオーナーになったらしいよ。


さっきカウンターのおばさんが

言ってた。


あの人と野球拳をして、

勝ったらツキが回ってくるって噂だよ








まさかぁ







その後

あっけなく素っ裸にされた一輝は、


その場にいたみんなの

いい酒の肴だった。


咲子は

カウンターで注文したきつねうどんを

トレーに載せ自分の席に運んでくると


もくもくと食べながら、


一輝の様子を眺めていた。



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そんなのって変じゃないですか?

 




店の前からタクシーで彼を送る。


タクシーの中で、

ほとんど剥げ落ちてしまったマニキュアを眺めた。




小説と裸

どっちを見られるほうが恥ずかしい?



一輝は答えない。



誰か追いかけたことある?

 
どうしてもその人が必要って訳じゃないんだけど、


自分が

誰からも必要とされていない

って、思うほうが怖くて

必死に追いかけるの。


そんなことない?



そんなのって変じゃないですか?



ふつう、そうだよね

 


車窓を流れる風景に目をやった。


いくら探し回っても

気に入ったものが手に入らなかったアーケード街。


せわしく走り回る路面電車。


郊外に抜ける旧国道は

電車の線路に沿っていた。




咲子の肩に一輝の肩が触れ、

温もりが伝わってくる。

猫が二匹寄り添って眠るように

人も寄り添えたらいい。

二人の膝の上を流れていく影に視線を移し、


咲子は深くゆっくり呼吸した。





中央駅から四つ目の駅裏に

一輝のアパートがあった。

四階建ての鉄筋コンクリートの白いビル。




昨日は鍵をなくして、

管理人に

嫌な顔されながら開けてもらってさ……


毎朝ほんとにうるさいんだ


ここからさっさと出て行きたい



誰に言うでもなしに、

ぶつぶつぼやきながら

タクシーを降りる一輝に続いて、

咲子も降りた。




なんで、君島さんまで降りるわけ



ここから電車に乗ってみるわ、駅どっち?



そこ曲がって右

 


咲子は階段を昇る一輝を、

道端に立って見上げていた。

一列に並んだ鉄のドアを

中央の階段が、

右と左に分けている。


線路寄りの二階が彼の部屋だった。



一輝がズボンのポケットから

鍵を出して部屋に入るのを見届け、

咲子は歩きだした。



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すっぽかされたのだと諦めている。

 





翌日

いつもなら電話番で

事務所にいる時間だが、


咲子は屋上に上がった。


今にも雨が降り出しそうな空で、


フェンスごしに街を見下ろすと

建物は両生類の皮膚のように呼吸をしている。




薄いガスの中で

川沿いに植えられた木が

黒っぽく帯のように続くのが見えた。


会社の屋上から眺めた樹も

川も嫌いじゃない。



見慣れた風景が、


今日はひどく感傷的に映る。




田邊の結婚式が近づいてきたから


動揺しているのか? 


ちょっと違う。




それでも、

こういうのは好くない兆候だった。

 


これまでは、


心の表面にさざ波が立つと

壁の染みに自分を同化させることで

鎮めることができた。




一輝が現れて以来、


咲子の心は

彼と些細な言葉のやり取りをしただけで、

大きく波が立つようになってしまった。


壁に染みついたまま

じっとしていることに苛立ち、


行く先を求めて

焦り始めていた。





その週


咲子は一輝を映画に誘った。


映画館のロビーで待ち合わせをしたのだが


約束の時間になっても

一輝は姿を現さない。


とうの昔にすっぽかされたのだと諦めている。

一輝が来なければ、


しかたないと笑ってから

家路につこう。


また、

自分の一人相撲で終わるに違いない。





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服、うちで乾かす? 歩いていける距離だから 

 




一時間以上遅れてやってきた彼は

足元も背中も

びっしょり雨に濡れている。




雨ひどい?




家を出たところでひどくなった。


俺、

雨降りに外歩いて

水かけられなかったことないし。

今日車に泥水をかけられたときは、


あぁ俺って、

とつくづく情けなくなった

 



今頃現れるなんて、


恨む気持ちが広がりかけて

咲子の心の底が波立った。




服、うちで乾かす? 
 
歩いていける距離だから



 


映画館を出ても

雨はまだ降り続いていた。

 
咲子の部屋はひどく散らかっていて

足の踏み場もない。

おまけに

洗濯物が窓を覆うようにぶら下がり、


ベッドの上は

今朝抜け出したままの形になっていた。


けれど

彼女は取り繕うと思わなかった。




俺の部屋よりすごい。

これが原因でふられ
たの?

 
営業の奴が噂していたよ





咲子が映画に誘った時、


迷惑そうな顔こそ見せなかったが

一輝には行く気など感じられなかった。




ずいぶん遅れたから

もう帰っていると思ってた。


まさか待っているとはね




俺に気があるの?

 とでも言いたげな顔。


彼の書く小説の主人公ならば、


こんな陳腐な台詞を言うに違いない。




私、

賭けをしいてたんだ。


もし君が来たら

会社を辞めようって。


シャワーを使うならどうぞ、


濡れた靴下は玄関で脱いでね




一輝は言われるまま

靴下を脱ぐと、


部屋の中を見渡しながら

ベッドに腰掛けた。

 


もしかしたら、

女の部屋に入るのが

初めてなのかもしれない。


落ち着かぬ様子の一輝を見て

咲子はそう感じた。




男にふられた年上の女に

少し付き合ってやるというのは

どんな気分だろう、


彼の眼に

自分は憐れに映るのだろうか。




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